E5:蠅の群れとスズメバチ – 蠅退治

「なにしてるんだい?」と言いながら、マーティがエリンのオフィスにいきなり入ってきた。  互いのデスクとオフィスとの間を数え切れないほど行ったり来たりしているこの二人の間では、形式的なあいさつなど不要だった。

エリンはモニターから顔を上げると、  うんざりした調子で「蠅退治」と言った。

セキュリティ侵害を受けたアカウントとシステムを調査し、何が起こっているかを突き止める「蠅退治」は、彼らのスローガンになっていた。  エリンとその少数精鋭チームは、アクセス ログと休暇予定表やカレンダーなどとを突き合わせて、ユーザーによるあらゆる異常なアクティビティを特定する仕事で大忙しだった。   彼らは通常より多くの時間をかけて、必要な範囲を超えてユーザーにアクセス権が付与されている事例(すなわち、攻撃者が自身の権限を増大させている可能性を示すもの)を探していた。   これは退屈で時間のかかる作業だった。  彼らが使用するIdentity Governanceソリューションは大きな助けになったが、まだ多くの調査すべきデータが残っていた。

マーティとグレッグは、デスクトップやその他のシステムに対するフォレンジックで忙殺されていた。  彼らはあらゆるマルウェア感染を分析しなければならなかった。しかし、より重要な仕事は、攻撃者が戻ってくるときに利用できるバックドアが残されていないか確認することだった。  どちらのチームも、あらゆる可能性を検討するために、昼夜を問わず長時間働いていた。

「やっぱり、全部のアカウントを閉じちゃうの?」 エリンが尋ねた。  「アカウントを2~3個残しておいて、あちらが何をやらかすか監視するっていうのはどう?  それで犯人を見つけられるかも」

「君はいつまで蠅退治をやるつもりなんだ?」とマーティが答えた。  「ネットワーク制限で今でも業務に支障が出ているんだよ。  それから、システムの再イメージングもしたし。  それから、フォレンジックのためにファイル サーバーを一時的にオフラインにしたし。  それから…」

「ああ、はいはい」エリンが遮った。  「わかったわよ。  ただ、まだ本当にいらいらしてるのよ、今回の件では」

「それは、こっちも同じさ」マーティは同意し、マウンテンデューの残りを飲み干した。

*****

門番は、王国の辺境で岩場を縫うように走る、ひっそりとした小道の持ち場を離れ、しゃがんで焚き火にあたっていた。  彼は、フロンティアに続く小道の曲がり角を曲がって、こちらにやって来る人影に気付いた。  この見知らぬ人物は馬にまたがり、急ぐ様子もなく近づいてきた。  この人物に特に疑わしい様子はなかったが、門番は注意を怠らず、小道をさえぎるように立つ門のところに戻った。   見知らぬ人物は門のところで止まり、革張りの小さなフォルダーをさっと取り出した。  そして、尊大な態度で門番に身分証を手渡した。  馬は落ち着かない様子で、早く先に進みたいと言わんばかりに、蹄で地面を蹴った。

門番は身分証を眺めた。  彼は盛り上がった印章の上に指を滑らせた。それは、持ち主が城の高位の参謀であることを示していた。 見知らぬ人物は馬上から門番を見下ろし、横柄な笑みを浮かべた。

門番は騎手を見上げて、笑みを返した。   次の瞬間、門番は革張りの身分証を火の中に投げ入れると、刀を抜いた。

見知らぬ人物が大声で何か叫ぶのと同時に馬が後ろ足で立ち上がり、門番に向かって前足を突き上げた。  突然、馬と騎手は荒々しく向きを変えると、危険なひづめから身を守ろうと防御の姿勢をとる門番を残して走り去っていった。

「止まれ!」と門番は叫んだ。

興奮した馬は、王国への入口を後に土煙を上げながら、フロンティアに向かって石ころだらけの街道を疾走していった。

*****

「これが有効な身分証だと言ったよな!」マエストロが声を荒げた。

「わたしが手に入れたときはそうだったわ」サイレンは応酬した。

「だったらなぜ失敗したんだ?」

サイレンは頭を軽く振って赤褐色の髪を整えてから、肩をすくめた。  「あなたが王国に送り込んだ間抜けな連中が捕まったのは、わたしの落ち度じゃないわよ」

「大ばか者どもめ!」マエストロが怒鳴った。 彼がテーブルを拳でたたくと、ワインの空瓶がひっくり返った。  瓶はテーブルから落ちて床を転がり、ブルートの大きくて重いブーツの下でやっと止まった。  ブルートは部屋の隅でいびきをかいて眠っていたので、周りで起きている騒動には気づかなかった。

「われわれの手下がフロンティアまで追い返されているという報告が最近になって相次いでいる。  それに、すでに城の中に潜入した者たちも捕まって、地下牢に閉じ込められている」マエストロは息を荒げて、部屋の中を行きつ戻りつしていた。

「あなたの手下はもっと注意すべきだったのよ」サイレンが反駁した。

「いいや、  彼らの落ち度ではない。  王の手先たちが気付いたのだ。  どうして気付いたのかはわからないが、向こうはこっちが思っていたよりもよく知っている。  だが、われわれは取るに足らない蠅を失っただけだ」マエストロは邪悪な笑みを浮かべた。「われわれにはまだ、臨戦態勢のスズメバチがいる」

火曜日の次回のエピソードにご期待ください!

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